おにぎり館

ゲーム世界の書物の収集および保存

帝君遊記・一

f:id:oni-girix:20201013041801j:plain

璃月は天下の宝が集まる場所。宝があれば、自然と真贋を見極める人が出てくる。

「希古居」の初代店主玟瑰が、そうした特別なコレクターであった。

緋雲の丘に建てられた「希古居」には、そのような客が常日頃から訪れた。この店は夜になると営業を開始し、訪れる客人も見る目のある玄人ばかり。

フォンテーヌの精密な時計も、スメールの香も、モンドの旧貴族の壺も、もしくは仙人が掛けた椅子、岩王が使った玉石の杯、風神がしくじって割った酒瓶も……すべて店の中に陳列していた。

夜、一人の貴公子が足を止めて、店のコレクションを細かく鑑賞していた。

彼は山岩のような厳かな長衣を着ていて、その目は金珀のように光っている。

ただ者ではないと、玟瑰は一目で判断した。

「ようこそ、お気に入りの品があったらいつでも声をかけてくださいな」
店主の優しい声が夜の閉静を破る。
「あ…ああ、すまない」
貴公子は気まずそうに笑った。

「私はこの精巧な偽物にしか興味ない」

彼の目線の先には一枚の欠けた古い玉札があった。

月の光が比較的状態を保っている部分に当たり、細い線状の瑕を照らした。摩耗した表面と欠け落ちた端々は、この玉札の辿って来た悲運を物語っている。

「偽物...……? どうして?」
客の嫌がらせに慣れている玟瑰ではあったが、面と向かって言われるのはやはり腹が立つ。

それにこの骨董品はある冒険者がアビスの深境から命を張って発掘し、彼女がほぼ全財産をはたいて無理に買ったものだ。これが本当に偽物だというならば、玟瑰の資産だけじゃなく、「希古居」の名誉にも大きな痛手を与える。

そこで彼女は、この玉札を目の前の客人に売ることに決めた。

「もうちょっと、詳しくお話しいただけます?」

ーーーーーーーー

「知っての通り、二千五百年前のテイワット大陸では災厄が幾度となく起こり、魔神が混戦を極め、大陸全土は混乱に陥っていた。当時、まだ七国はなかったが、人間にはそれぞれの集落と都市があった」
「長い時間で名前を忘れられた魔神も、かつては己の民に祀られ、崇拝され、愛されていたのだ。だから祖先たちは海辺の真珠で、山奥の玉で、草地の石で、地中の塩で各自の神の彫刻を造った」
この玉札はその時代の産物である。岩王帝君を崇拝するある部族の由来....…まあ、その時、岩王前はまだ岩王帝君とは呼ばれていなかったかもしれない。
あの時、岩王帝君はまだ七国の共通貨幣となるモラを作っていなかった。だから、部族は金鉱石を媒介にし、岩王の肖像に価値を与えた。
「見ての通り、人間の知恵は岩王の采配を越えていたんだ」

貴公子は言葉を止め、物思いにふける。
銀色の月光のせいか、彼の体が少し小さく見えた。

「この種の玉札は極めて少なく、山奥に埋もれがちだ。それに人間の手で作られたため、一枚一枚が唯一無二のもので…その価値は極めて貴重となる」
「惜しいのは、貴店の玉札は近代の模倣品だ。おそらく、貴方の父親世代で造られたものだろう」
「『なき玉はない』と業界では言う。この玉には瑕があまりに少なく、かの時代の代物には見えない」
「それに、祖先の時代の遺物で肖像が女性になっているケースはめったにない」

貴公子は玉札を持ち上げ、月光を借りてより細かく観察する。
「無数の言い伝えのうち、岩王帝君が女性の姿になったという書物もない.…」

貴公子は一見若く見えるが、老学者の風格を漂わせている。

「お客様は知らないでしょう…」
玟瑰は微笑んで、狡猾な狐のように獲物を挑発した。
「どうか、私の話も聞いていただけますか」

店主は目を細め、客に話し始めた。


f:id:oni-girix:20201013041624j:plain
収集場所:軽策荘の管理人の家

トントンへの手紙

f:id:oni-girix:20201012035159j:plain

親愛なるトントンへ
時間が経つの早いものだね、パパが海に出てからもう三ヶ月が経った。パパに会いたいかい? 毎日ちゃんと時間通りに寝てるかい? 山荘のおじいちゃんとおばあちゃんたちを怒らせたりしていないかい? パパはもうすぐ帰るよ。パパが稲妻国から帰ってきたら、一緒に埠頭で「南十字」の大船を見に行こう。今度はちゃんと約束を守るからね。

トントンは瑞光の浜を覚えてるかい? パパはあそこで砂金をいっぱい掘ったんだ、もう一人じゃ抱えきれないほどの量だよ。パパが戻ったら、稼いだお金でたくさんのうまいものを買おう。あとは山荘の製粉所を買って、他にないくらい柔らかい豆腐を毎日作ろう! でもやっぱり、パパはこのお金で鴉月港に良い家を買いたいんだ。海を眺められる広い家をね! パパが帰ったら、トントンに決めてもらおう。いいかな?

そうだ、帰離原にある施華の池の向こうに、とても高い崖があってね、そこで遺跡守衛に遭遇したよ。そいつはずっと座ってて、頭を下げたままちっとも動かなかないんだ。空に稲妻が走っても、雨に打たれてもね。…よく見てみるとそいつ寝てたんだよ! パパは身体を上手く使いながら、正面からそいつに登ってみたんだ、そうしたら頭を回してしまってねカチャッて音がしたと思ったら、そのままゴロゴロと頭が転がっていってしまった! で、そのまま崖に。崖の下を覗いてみると、あんな大きな頭がバラバラだ、残念だよ。そうじゃなければ、「戦利品」として持って帰って、トントンにも見せてやりたかったのに。

あとは絶雲の間だ。トントンがもう少し大きくなったら、あそこにも連れていきたいな。絶雲の間から見る雲は海みたいで、滝が軽策山荘のものより何百倍も壮観なんだ。仙人の住処まで見えるようで、その絶景を言葉にするのは難しい。それにパパはさ、なんと伝説の仙人に会ったんだよ! 一緒にお酒を飲んで楽しかった。仙人がパパに酒盃をくれたよ。中に息を吹きかけるとお酒が勝手に湧いて出てくるんだ。いくら飲んでもなくならない。でもトントンはまだ子供だから使ってはダメだ、未成年の飲酒は禁止されているからね。将来、トントンが大きくなったら、パパの宝物を全てあげるよ。

璃月での冒険は一段落ついたから、埠頭に行って「南十字」の大船で遠方へと旅立つ。新しい目的地ではきっと、さらなる絶景とお宝がパパを待っている。パパはトントンに見せたくてたまらないよ! トントン、毎日時間通りにちゃんと寝るんだよ。甘いものは歯に悪いから食べ過ぎないようにね。あと山荘のおじいちゃんとおばあちゃんと仲良くするんだよ。喧嘩は絶対ダメだぞ! パパはすぐいっぱいの宝物を持って帰るから。

トントンを愛するパパより


f:id:oni-girix:20201012035141j:plain
収集場所:軽策山荘の中心地、トントン近くの机上

侠客記・山妻編

f:id:oni-girix:20201012033519j:plain

璃月より北の絶雲の間は常に雲や霧に包まれている。薬草採りの間では仙人や神奇にまつわる幾多の伝説が伝わっていた。

遠い昔、谷という薬商人が薬草の分布を考察するために絶雲の間に入ったところ、四、五人の賊に後をつけられた。その晩、銭谷がくつろいでいるところを山賊に襲われ、金銭を奪われた挙句、縛られて谷に捨てられる。

真夜中、商人は目覚めた。彼は必死に足掻き、大声で助けを求めたが、絶雲の間の山谷は応じてくれなかった。深い森に、彼の悲鳴だけが彷徨い、夜行の鳥を驚かす。

銭谷が途方に暮れ、呻き声をあげている時、夜泉の泣き声と山風の音に紛れ、ある旅れた声が聞こえてきた。
「起きろ!」
「無理だ!」と彼は悲鳴をあげ、夜行の狐を驚かせた。しかし、彼がもがいているうちに、手足を縛る縄は緩んでいった。

商人は立ち上がり、お礼をしようとした時、また声が聞こえた。
「山を登りたまえ」
銭谷はつづら折りの山道を辿って山頂まで登った。東の空はもう白くなっている。

山頂で、石店の外に頭を出している曲がりくねった枯松が目に入った。そして、先刻の賊人たちがそこに縛られ、その重さに耐えきれない松がぎしぎしと音を立てている。

その隣にある怪石に、最も最も真っ白な老人が座っていた。うろたえる銭谷を見るなり、老人は大声で笑い出し、賊に奪われた金銭を全部銭谷に返した。

銭谷の問い掛けに対し、老人は山中に暮らす人で、住む場所も眠る場所も定まらないという。商人は何度もお礼をしたが、老人は一笑に付した。結局、銭谷の厚意に敵わず、老人は一枚のモラだけを受け取り、銭谷の娘の婚儀に出席する際のお祝い金として使うと約束した。
災い転じて福となしたのか、銭谷の薬屋は徐々に繁盛した。鉄谷も鴉月港で名の知られた高商となった。話によると、立身出世した銭谷は、再び絶雲の間に赴き、命の恩人を探しに行ったが、見つかったのはボロボロのテントと古い酒の瓶だけだった。

瑞光の浜でこの老人が採掘人の姿をして絶壁を闊歩するところを見た人がいれば、老人が漁師であり、船から落ちて溺れる人を救っていたという人もいる。噂は様々だが、誰一人として老人の素性を知らなかった。

残念なことに、銭谷はもう歳を取ったが、娘はまだ婚姻を結んでいない。どうやら、山の老人が婚儀の宴に出席するのはまだまだ先のようだ。


f:id:oni-girix:20201012033322j:plain
収集場所:軽策荘の六から入手

冒険者ロアルドの日誌・絶雲の間・慶雲頂

f:id:oni-girix:20201012031823j:plain

この冒険日記を書く前に、自戒するためまず一言書かせてもらう。最近、文章を書いた後、しばらくするとこの日記を失くしていることに気付く。ロアルドよ、こんな悪習は正さないといけない!

どれくらいの時間を費やし、こんな高いところまで登ったのか覚えていない。崖の緑には白い雲海が漂い、かつて自分がこの雲海のどこから山頂の「仙居」を眺めたのかが全く分からない。

この山頂では奇怪な形の松以外、生気を感じるものはほとんど見ない。たまに石薦が鳴きながら雲海へと急降下し姿を消すくらいだ。この上は伝説の仙人の家だが、行く前にまず支度をしないと。当面の問題はこないだ落ちて壊れた登山の装備だ、あとはいくつかの傷の処置。絶雲の間に来た時、一人の年寄りの農民が私に軟膏をくれた。使う時にちょっとしみるが、効果は抜群だ。

こんな高い山頂で夜を過ごすのは、あまり心地よくなかった。雲海の寒風が骨に染みるように吹き、テントの隙間から襲ってきて全く寝れない。篝火を灯してもすぐ消えるし。山頂の仙居に住んでいる仙人はこの風の寒さを感じるのだろうか、孤独を感じられるのだろうか?

一晩中眠れなかった、やっと月が海に沈む時がきた。カバンをチェックして、夜が明けたら山頂の仙居へ出発する。こんな高所で雨が降らなければいいが。


収集場所:?

冒険者ロアルドの日誌・地中の塩

f:id:oni-girix:20201010193056j:plain

萩花洲の川原に沿ってここまで歩いてきた。私の靴はずぶ濡れだ。こないだ靴を脱いだ時、なんとカエルが靴から飛び出てきた。

遺跡の規模から見ると、数千年前のここは神殿と避難所だったはずだ。魔神戦争時に塩の魔神が建造したらしい。脇月の伝説では、彼女は優しすぎる魔神だった。無慈悲な魔神たちの混戦の中、人類は微小すぎる存在だった。だが塩の魔神は冷酷な競争に参加せず、彼女は戦火で家を失った人々を連れて、ここで新たな町を建てたのだ。天地を覆すような世紀末、彼女は人々に慈愛と慰めを与え、魔神たちと元の平和に戻る方法を探していた。

町の一部が碧水川の川底に埋まっていて、この神殿だけが唯一の「生存者」らしい。

彼女は追従者を集め、現在「地中の塩」と呼ばれている集落で安定した生活を送った。魔神の死によって町が崩れるまで、数百年も存在していたそうだ。

優しい魔神は神との戦いで戦死したわけではない、彼女は愛していた人間に裏切られたのだ。

彼はここの最初で最後の人間の王。一族の他の者と同じように彼も塩の魔神を愛していた。だが人間の心では自らを捨てる神の愛を理解できなかった。守護と戦いの力を求めるために、場違いの優しさを証明するために、彼は長槍を手にして孤独な魔神を殺めた。そして、塩の聖殿は塩の魔神の死と共に崩れ落ち、人間の町は塩の塊のように苦い結末を迎えた。

裏切り者のその後については諸説があり、真偽は不明である。たぶん、彼は廃墟の中で孤独に包まれながら、町を数千年統治したのかもしれない。戦争が終わり、廃墟が川に飲み込まれ、王杖が朽ちた後、彼はやっと時間と共に灰となった。あるいは、神殺しの大罪を犯した後に、罪悪感に飲み込まれ自ら裁いたかもしれない。とにかく、かつて塩の魔神に恵みを受けた一族は臨月の大地に四散し、伝説と共に、岩の神が治める安全な港へと移り住んだ。故にこの物語は今も伝わっている。

塩の魔神の遺体は、未だにこの遺跡の奥で眠っているらしい。すでに塩の結晶と化しているが、長槍に貫かれた瞬間の姿のままだという。

空に暗い雲が集まり、雨が降りそうだ。急いで出発しないと。これから北西にある軽策山に向かう。雨が強くなる前に辿り着ければいいが。あとは急ぎすぎて、この日記を無くさないようにしないと・・・


収集場所:?

冒険者ロアルドの日誌・軽策山荘

f:id:oni-girix:20201010020218j:plain

ドラゴンスパインを離れて、川に入り、萩花がたくさん咲いている砂州を歩く。空を遮るほどの竹林を通過し、私はやっと軽策山に辿り着いた。靴も服も水に浸ったせいでびしょ濡れで、さらに土砂降りの雨に降られて全身ぐしょぐしょだ。幸い、山荘の長老たちがとても友好的で助かった。集会用の部屋で服と靴を乾かせてくれただけでなく、新品の着替えと保存食まで用意してくれた。

軽策山荘にはたくさんの子供がいる。みんな可愛いがしつこい、そして年寄も結構いる。みんながゆったりと裕福な生活を送っているのが見て分かった。長老たちの話によると、ここの若者のほとんどが璃月港で働いているそうだ。そして、その多くがそのまま璃月港に居を構え、生計を営み、毎月仕送りを送っている。若者が都市の華やかさや利便性を味わってば、もうここに戻って生活できないのは当然かもしれない。璃月港のおかげで軽策山の住民の生活は豊かで楽になったが、ここの高齢化に歯止めはきかなそうだ。

言い伝えによると、「軽策」という言葉は上古の魔獣「螭」に由来するらしい。もちろん、現在の共通語では「螭(みずち)」と呼んでいるが、「軽策」では荒れた時代の璃月先住民の発音が元となっている。

長老曰く、千年前にモラクスが璃月に害をもたらした螭獣を鎮めたらしい。螭は死後、その肢体が縮こまり頑石となり、その血が碧水に、鱗が棚田に、かつての魔獣の巣穴が今の軽策山となったそうだ。

けど、ざっと調査してみたところ、ここの山のほとんどは外部の衝撃により砕けた巨岩が元になっている。水元素の魔獣が存在した痕跡も見つからなかった。もしかしたら、螭の骸はとっくに朽ち果てたのかもしれない。魔獣が山岳の由来となった話もただの眉唾なのではないかと思う。

これから絶雲の間の石林にある湖に行ってみる。伝説によると、璃月人がそこに迷宮を建て、仙人が同居しているらしい。運が良ければ会えるかもしれない。

 

収集場所:軽策山のどこか…?

冒険者ロアルドの日誌・孤雲閣

f:id:oni-girix:20201009052836j:plain

島の丘々人にバレないよう、無事に孤雲閣に辿り着いた。上陸する時に、ちょうど六角形の大きな石柱が眩しい日差しを遮ってくれた、石柱の影はとても涼しかった。数千年の間、魔物の残骸を餌にしてきたのか、ここの砂浜に生息するカニは大きく、焼くと美味しかった。

 今日の晴れ間を見ると、ここが岩の神と海魔が死闘を繰り広げた戦場であったとは想像がしがたい。昔の血はとっくに青い海に溶け込み、跡形もなくなっている。一人が流した血も無数の英雄の血によって形成された激流も、果のない海の前では同じようだ。永遠に吹く風と海流が歴史の塵誇りを洗い流してくれる、全てが元に戻るまで。

古の時代、岩の神が岩を削って槍を造り、その巨槍をこの海域に投げ込んで、深海で反乱を起こした魔神を貫いた。巨槍が時間の流れにつれて徐々に風化し、今の景色を作り出したのだ。

夜は陸に戻ってテントを張った。ここから出港する船が見える。遠方で、「南十字」船隊が勢い良く帆を張り出航した。あの伝説の北斗様は今、七星商会のどんな任務を遂行しているのか。

夜はちゃんと寝れなかった、暗黒で陰湿な夢を見たせいだ。自分が岩神に貫かれた海底の妖魔であり、必死に足掻き、堅固な岩槍を引き抜こうとする夢だった。夢の中のすべてから壮絶な苦しみと憎しみが感じられた…

どうやら孤雲閣は一夜を過ごす場所として不向きなようだ。篝火を灯し、総長に出発する。次は璃月に戻り、支度を整えたら絶雲の間に向かう。前回の訪仙の旅は仙人に会えず、失敗だった。今度は慶雲頂にも行ってみる。もしかしたら、今度は会えるかもしれない。

 

注:もう日記を失くさないように!

 

f:id:oni-girix:20201009064813j:plain

収集場所:璃月港から北東、孤雲閣をのぞむ崖